関西人が標準語をマスターするまでの道(後編)
標準語マスターへの道、後編です。
2009年4月、僕は大学院へ進学するため、静岡へと引っ越しました。
研究室初日。研究室のメンバーが暖かく迎えてくれ、みんなでお菓子を食べながらお話した。
コーヒーや紅茶ではなく、緑茶が出てきたのにも驚いたのだが、それ以上に衝撃だったのが、飛び交う標準語。
「〜だよね」
だの
「そうなんだ」
だの
ガチの標準語の応酬を受けたのはこれが初めてだった。
まさに洗礼。大げさでもなく頭が痛くなった。
これがリアルな現場なのか…。
実は静岡に来るまでの間、密かに標準語の練習をしていた。
ドラマやバラエティを見て勉強することはもちろん、小説を標準語口調で読んでみたり、頭の中で物事を考える時に標準語を使ってみたり。
しかし、所詮は一人での練習。実際にネイティブの人たちに囲まれるとそんな小手先の技術はまったく通用しなかった。
英語は度胸というが、標準語も度胸が必要だった。
ネイティブを前にすると、付け焼刃の標準語なんかでは太刀打ちできないのではないかという不安がよぎる。
だが、ここで遠慮して関西弁で話してしまうと、そのイメージが固まってしまい、それ以降標準語を話せなくなってしまう。
僕は決死の思いで自分の思う標準語を話した。
自分の口から出る標準語はとてもぎこちなく、何より標準語で会話している自分が気持悪くてしかたなかった。
そんな感じで、静岡での生活は標準語を使って始まった。
少しずつ慣れていくのだが、土日を挟んでの月曜日は思わず関西弁が出そうになった。
しかし、僕の標準語は思いのほか上出来だったらしく、周りにはすんなりと受け入れられた。
自分から神戸出身だと言わない限り、関西出身だと悟られることは一度もなかった。
関西にいるときから風貌が関東っぽいと言われていたので、それも関係しているのかもしれないが。
とにかく、僕の標準語はみるみる上達し、自分としても標準語を話すことにどんどん抵抗がなくなっていった。
逆に、たまに関西弁を話すと、「えせ関西弁に聞こえるw」と言われる始末だった。
しかし、僕は次に意外な問題に直面することとなる。
それは関西の地元へ帰省したときのことだ。
標準語に慣れきっているため、今度は逆に関西弁が出てこなくなるのだ。
静岡に来て最初の夏の帰省の時はうまく切り替えができず、家族や友人に顔をしかめられることになってしまった。
このときはまだまだバイリンガルではなかったなあと今思う。
だが、それも時間がたつにつれ切り替えがスムーズにいくようになっていった。
といってもそれまでには1年以上かかったのだが。
こんな僕ですが、関西弁と標準語でなかなかうまく使い分けることができなかった言葉があります。
それを二つご紹介しましょう。
まず一つ目が、「マクド」です。
これは関西弁でマクドナルドを意味する略語です。
これが関東では「マック」となります。
静岡にいるときは専ら「マック」「マック」と言っていました。
関西に帰ってきたときは「マクド」と言わないといけないのですが、これがなかなか難しいのです。
どうしても気を抜くと「マック」と言ってしまう。
関西の方はおわかりかと思いますが、関西でマクドナルドを「マック」ということなどもってのほか。ご法度です。
僕はこれを何度もいい間違え、微妙な空気にしてしまったことがあります。
そして二つ目。これは逆に標準語への言い換えがうまくいかなかった事例です。
それは「なおす」という言葉。
普通「なおす」といえば修理するという意味になります。
「この時計は壊れてるからなおさないといけないね」のように。
しかし、関西では(九州でもそうらしいですが)「なおす」を「もとの場所にもどす」という意味で使います。
「ちょっとこの本なおしといて」というように。
これをほぼ無意識に使っているので、僕は標準語でもついついこれを使ってしまいます。
イントネーションは標準語にできているのですが、意味が違っているため、通じません。
「これなおしといて」「へっ??」
「(あれ、聞こえなかったのかな?)いや、だからなおしといてよ」「??」
当たり前に通じると思っているので、なかなかなぜ通じないのかがわかりません。
あと、おまけに「これも通じないのか!」というフレーズをあげてみましょう。
●「こそばがり」→くすぐられることに対して敏感な人
(これ、なんと該当する言葉が標準語にはないんですよね!驚き)●「ぬくい」→「あったかい」
最近標準語を使う機会がないので、忘れそうで恐いです。
英語と一緒で使わないと衰えていきそう。
最近敬語まで関西弁のイントネーションになってきていて、なんか改めて言葉っておもしろいなと思ったので、二日にわたって記事を書いてみました。
みなさんは関東に行った時に関西弁(または方言)をつらぬく派でしょうか?
それとも郷に入っては郷に従え、標準語を話そうとするでしょうか?
これってなんだかその人の価値観に通ずるものがある気がしますね。
いやー、おもしろい。