退去のワンシーン2

社会人になったら常に部屋をきれいな状態にしようと決めていた。

仕事を終えて帰ってきて部屋が汚いと気が滅入るし、片付けないでためておくとどんどんものが溜まっていく。

であるならば、きれいに保つ仕組みが必要だ。



掃除グッズを揃えた。

フローリングの掃除、台所の掃除、お風呂の掃除、トイレの掃除。

それぞれの場所の掃除に必要なものをひと通り揃えた。

使い捨ての用具は予備の詰め替え用品も買い、いつでも掃除ができる環境を整えた。

それなりに費用はかかったが、これも初期投資だと思った。

しかし、部屋が汚れる前に退去することになってしまった。



実家に持って帰ろうか。

しかし、実家には僕以上にきれい好きな母がいる。

20年以上の経験によって取捨選択された掃除用具がすべて揃っている。

それに、荷物は増やさない方がいい。

物というのは、捨てるより荷造りするほうが何倍もエネルギーがいるのだ。

ここのところろくに外にでも出ておらず、そんな体力は残っていなかった。



いいんだ、全部捨ててしまおう。

大きなゴミ袋に、片っ端から掃除用具を投げ入れていく。

不思議だ。

汚れた場所をきれいにするために作られた道具たち。

しかし、その役目を果たすことなく、焼却され、灰になっていく。

それが不思議で、おかしかった。