最悪の人生を考える

NHK教育テレビでオンエアされている番組、「スタンフォード白熱教室」(http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/stanford.html)。
アメリカの名門スタンフォード大学で行われている起業家を育成する授業の一つを収録したものだ。
講師は「20歳のときに知っておきたかったこと」がベストセラーとなったティナ・シーリグ氏。
先週の日曜日に放送された回を録画していて今日時間のある時に見てみた。
テーマは「最悪の家族旅行を考える」というもの。
すばらしい革新的なアイデアを生み出すためのトレーニングとなる授業で、クラスをいくつかのグループに分けて簡単なレクチャーの後にブレインストーミングを行い、それぞれの班のアイデアを発表する形で授業は進行していく。

今回の授業は「最高の家族旅行を考えよう!」というもの。
まず最初のワークでは、各班ごとにブレインストーミングを行い、考えた旅行のプランに題名をつける。
そして次に「最悪の家族旅行」ということで、考えつく限りの最もひどい家族旅行を考えて題名をつける。
ここまでいったところで、最初に考えついた「最高の家族旅行」の案を破り捨てる。
次に何をするかというと、各班で出てきた「最悪の家族旅行」を他の班と交換し、その回ってきた「最悪の家族旅行」を改善して「最高の家族旅行」に変えるというもの。

どの班もなかなかひどい旅行を考えていた。
たとえばタイタニックの旅なんてのがあって、船が沈没してしまうような旅とか。
その最悪な旅を最高の旅に作り変えていくわけだ。
どうするのかなーと思って見ていたのだが、その班はその旅を究極のアドベンチャーに変えてしまった。
大海原への船旅。彼らを様々な危険が襲う。果たして彼らは無事に家路に着くことができるのか。家族の絆はどうなる…。などなど。

それらの課程を体験して、学生たちは新しいアイデアの考え方を学ぶ。
つまり、いきなりいいものを考えようとするのではなく、まず考えつく限りの最悪のものを考えてそれをどうすればいいものに変えていけるかという視点から物事を見つめ直すのだ。
これによって普通の思考の課程では思いつかないような奇想天外なアイデアに思い至ることがある。

これが番組の内容だったのだが、それを見ていて「あっ、なるほど」と思うことがあった。
なのでその二つの考えを書いてみようと思う。


==========

最悪の状況から最高の状況を作り出す

最高の家族旅行ということで、学生たちがはじめに考えていたものはどれも楽しそうなものだった。
きれいな景色、快適なホテル、珍しいもの、おいしい食事。
彼らのアイデアを聞いているだけでそんな旅行に行ってみたいものだと想像がふくらんだ。

しかし、最悪な旅行から最高の旅行を考える課程で出てきたアイデアの方が僕をワクワクさせたのだ。
最悪な旅行、不快さ、ひどいサービス、退屈さ、家族の分裂。
これらの困難な状況、それをいかに最高に変えていくか。
どうすれば最悪な状況を打開して最高の体験にできるのか。
普通であれば絶対体験したくないようなことを見方を変えたり、視点を変えて魅力あるものにしていく。
そんな彼らの努力の結晶として出来上がった「最悪の旅行を改善して作った最高の旅行」は初めから最高の旅行を考えたときにできた旅行よりもとてもエキサイティングなものになった。
少なくとも自分が実際に体験してみたい!と感じたのは前者だった。

それも見ていた思ったのは、きっと人生も一緒なんだろうなーということ。
最悪な状況があってそれをいかに作り変えていいものにしていくか。
不満を持つことなくそれなりに進んでいくよりも、この状況をもっと良くしたいと思って行動していくほうが充実してるんじゃないだろうか。

今回最高の家族旅行を考える課程を見ていてそのことを改めて感じた。


悪いことを考える想像力は豊か

最高のものを考えることと最悪のものを考えること。
どちらも極端なものを考えつくことなんだけど、それらの性質は結構違うものだと思った。
それは、最悪なものを考えるのは最高のものを考えるより簡単だということ。
最高のものを考える上では二つの障害がある。
まず一つは、もっといいものがあるのではないかと思ってしまうこと。
いいものにはキリがないのだ。
もっといいものがあるのではないか…と考え出すとなかなか最高といえるものが見つかりにくい。
そして二つめが、いいものを考える課程では無意識の間に自分の想像力に制限をかけてしまうことだ。
いいものを考えていても、「いや、こんなにいいものはありえない」とか「これはいいけど実現不可能だな」とかいう具合に自分で可能性を切り捨ててしまい、想像力に鍵がかかってしまうのだ。
逆に悪いことは簡単に次々に悪いことが浮かんでくる。
そして考えつく限りの最悪な状況もリアルな感情を持って想像することができてしまうのだ。

これはつまりいかに僕たちが恐怖や不安を持ちやすいかということに関係していると思う。
楽しいことや幸せなことを考える時は意識しないうちに制限をかけているのだが、悪いことに関してはその制限がはずれ、「こうなったらどうしよう」などと考えつく限りの最悪な状況をイメージできてしまうのだ。
このことを知っておくのはとても役に立つと思う。
ついつい悪い考えに頭が支配されそうになったらこの性質を思い出すといい。
悪いことを考えるのをやめていい考えの方に頭をシフトするのだ。
自分の頭をいい考えでいっぱいにしておくことは重要だ。


==========


自分の人生をどう生きたいのか。
それを考える時、「じゃあどういう生き方をしたくないのか」から出発して考えるという方法は有効かもしれない。
絶対歩みたくない人生をまず考えて(おそらく簡単に思い浮かぶはず)、それを変えて「ではどういう生き方をすればいいのか」を考える。
逆の方向から考えることで今まで知らなかった自分を発見できるかも。